「神戸発祥の総合商社の源流・鈴木商店を知る」講演会で、株式会社市場経済研究所代表取締役の鍋島高明氏が講演されました。

2019.3.10.

P1060658.jpg神戸市主催の「神戸発祥の総合商社の源流・鈴木商店を知る」第4回講演会(最終回)で、当記念館の監修でもある株式会社市場経済研究所代表取締役の鍋島高明(たかはる)氏が講演されましたのでご紹介します。

P1080701 (800x601).jpg【鍋島高明氏 講演概要】
日時 : 平成31年3月9日(土)  14:00~15:00

場所 : 神戸ポートオアシス5階 503会議室(神戸市中央区新港町5番2号)

主催 : 神戸市(みなと総局 計画部 港湾計画課)

演題 : 金子直吉と岩崎弥太郎 ~ 共通点と相違点 ~

【鍋島高明氏プロフィール】
日本経済新聞社編集局商品部次長・編集委員、日経総合販売取締役を経て、現在は株式会社市場経済研究所代表取締役、鈴木商店記念館監修、"金子直吉と岩崎弥太郎"の二人と同じ高知県出身

(主な著作)
「大番頭金子直吉」(高知新聞社)、「幸徳秋水と小泉三申―叛骨の友情譜」(高知新聞社)、「岩崎弥太郎―海坊主と恐れられた男」(河出書房新社)、「日本相場師列伝」(日経ビジネス文庫)など多数。日経新聞電子版に「相場師列伝」、ヤフー・経済ニュースに「投資家の美学」を連載中

土佐(現在の高知県)からは日本史上に残る企業家が出ていると言われており、日本経済近代化の過程において明治を代表する企業家が三菱財閥の岩崎弥太郎・弥之助兄弟だとすれば、大正を代表する企業家の一人が金子直吉と言っていいでしょう。

kanekonaokiti62.PNG               ※上の写真(左)は金子直吉、(右)は岩崎弥太郎です。

hukuzawamomosuke.PNG「電気王」「電力王」の異名を持つ事業家であり辛口の批評家でもあった福沢諭吉の娘婿・福沢桃介(左の写真)は、自著「財界人物我観」において神戸の鈴木商店の大番頭として采配を振るい、日本の近代経済史に大きな足跡を残した金子直吉について、次のように記して三菱の創始者・岩崎弥太郎よりも高く評価しています。

「四国の南端、薩摩嵐のそよ吹く土佐の国は、我が財界に二大偉人を送った。一は岩崎弥太郎、一は金子直吉だ。弥太郎は人も知る通り現今(げんこん)三井と並び称せられる世界的富豪三菱の鼻祖(びそ)、時代が(うつ)っているとはいうものの、彼が死んだ時の三菱の財産はせいぜい約二千万円、その事業は三菱汽船会社(のちに郵船会社となる)、高島炭鉱くらいのものであった。

これに引換え鈴木商店すなわち金子の事業は、とうてい弥太郎逝去当時の三菱の比ではなかった。日本において他の追随を許さざるのみならず、世界の檜舞台に押出しても当然ファスト・クラスに()するものであった。すなわち鈴木の支配下における事業と投資額は、ザット次のとおり。・・・・ 

のみならず鈴木は、人造絹糸、製油、樟脳再製、窒素工業のごとき我が国に必要な基礎工業にも先鞭をつけた。その英雄的行為は、驚嘆するにあまりあるではないか。・・・・ 首脳者金子は我が財界におけるナポレオンに比すべき英雄だ

naokitiyukarinoti.PNG上の写真(左)は金子直吉の生誕地(高知県仁淀川町下名野川地区[旧・吾川郡名野川村])、(右)はかつて金子が丁稚奉公をしていた傍士質店(金子は質入れされていた書籍を読み漁り、後にここを「質屋大学」と称した)があった高知市農人町の現在の様子です。

講演会は主催者である神戸市みなと総局 計画部 港湾計画課・田中謙次係長の司会で始まり、初めに鍋島氏よりレジュメの年表に従って明治40(1907)年に大里(だいり)製糖所を大日本製糖へ売却することによる売却益(400万円)を得ると、その後わずか10年で鈴木商店を日本一の総合商社に育て上げた金子直吉と、明治6(1873)年に開成館大阪出張所(大阪土佐商会)をルーツとする商社・九十九(つくも)商会を(三川商会を経て)三菱商会に改称すると、その後わずか10年で海運業を中心にして三菱財閥の基礎を築き上げた岩崎弥太郎の波瀾に満ちた生涯について解説がなされました。

P1080718 (800x601)2.jpgその上で、土佐が生んだこの偉大な二人の企業家の共通点と相違点を検証しました。

<二人の共通点>
①株式会社を嫌う ②仕事師 ③生来のブル(強気派、買い屋) ④樟脳の商売にこだわる ⑤旺盛な読書欲 ⑥母親が偉かったが、父親には存在感がなかった ⑦風評を気にしない ⑧(本来の)政商ではなかった ⑨土佐にはアダタナイ(高知弁で"納まりきらない"の意)男、地元・土佐より国益を優先 ⑩土佐派の支え ⑪事業に対する貪欲さ ⑫氷嚢(ひょうのう)で頭を冷やした金子と冷水で頭を冷やした岩崎

<二人の相違点>
①独学の金子と英才教育を受けた岩崎 ②酒席無縁の金子とコップ酒の岩崎 ③新興の鈴木と既成の三菱 ④(社員・部下に)任せる金子と独裁の岩崎 ⑤小僧上がりの鈴木と学卒の三菱 ⑥「鈴木商店」の社名に固執する金子と何度も社名を変更する岩崎

P1080729 (800x601).jpg当日は、あらかじめ予約を申し込まれた90名余(関係者を含む)の方の参加をいただき、参加者は鍋島氏の綿密な調査と洞察力に裏打ちされた解説やエピソードに熱心に耳を傾けておられました。

最後に鍋島氏より、最近の経済界が元気がない原因として、コンプライアンス(法令順守)に縛られる余り、リスクを冒して行動することが出来にくくなっていること、今こそ金子、岩崎の二人に共通する、失敗を恐れずチャレンジする企業がもっと多く出て来てほしいとの締めくくりの言葉が述べられ、講演会は大好評のうちに終了しました。

「神戸発祥の総合商社の源流・鈴木商店を知る」講演会および勉強会は、今回の第4回講演会をもちまして今年度のスケジュールをすべて終了しました。各講演会・勉強会とも多くの方の参加をいただき、すべて満席状態にて開催され盛況裏に終えることができました。各講演会・勉強会を通じまして、神戸発祥の鈴木商店について一人でも多くの方に理解を深めていただくことができましたなら幸いです。

参加者の皆様、講師の皆様、主催者である神戸市(みなと総局 計画部 港湾計画課)の皆様ほか、関係するすべての方に改めて感謝申し上げます。

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